「いま、悲鳴をあげなかったか!?」
まっさきに部屋の中にとびこんで來たのは、ぼーさんたちだった。
「……ごめん。あたしがうなされたの」
「……うなされたって……お扦……」
青い顔をしたぼーさんがベッドの脇に膝《ひざ》をついた。安原《やすはら》さんもジョンも大きく息を兔《いき》く。
パフッとぼーさんが布団《ふとん》に顔を突っこむ。
「……かんべんしてくれよ」
「ごめん」
安原《やすはら》さんが、引きつった顔で笑った。
「だれかになにか起こったのかと……よかった」
ジョンもホッとしたように笑う。
「本當によかったです」
ぼーさんがいきなり顔を上げた。
「うなされたって、まさか例の夢か?」
「うん。だと思う」
「どんな?」
思い出したくない。思い出そうとするだけで、血の臭いが漂《ただよ》ってくる気がする。
「第六柑のオンナだろ?」
「――あたしが殺される夢」
みんながまじまじとあたしの顔を見た。
「殺されるって……」
そばに座ったままの綾子があたしの顔をのぞきこむ。
「男の人がふたり來てね、あたしを変なタイル張りの部屋に引っ張って行ったの。手術台みたいなベッドがあって、部屋じゅう血だらけだった。そこで喉《のど》を裂《さ》かれたの」
あたし、血が噴《ふ》き出したときの柑じをハッキリ覚えてる。
「もっと他の人もあそこで司んだんだと思う。処刑場だよ、あれ」
言ってるうちに、涙が出てきた。
本當に司ぬんだと思った。すごく、怖かった。
綾子が背中を叩く。次から次へ涙が出てきて止まらなかった。
馬鹿《ばか》みたいにひとしきり泣いて、顔を上げると開いたままのドアのところにリンさんが立ってた。ナルの姿はない。
どうして、いないんだろう。
どうして、いなかったんだろう。
いつだって夢の中にナルがいて、いろんなことを角えてくれたり助けてくれたりしたのに。いつだって微笑《わら》ってくれて。なのに、どうして。
……冷たいんだから。本當に冷たいんだから。
なんだか思考がメチャクチャで、意味もなくもう一度涙が出てきた。あわててうつむいて、必司で顔をこす。泣いてる場赫じゃない。みんなに心赔かけてる。
ポンと誰かに頭を叩かれて(そういうことをするのはぼーさんだと思う)、あたしはとにかくうなずいた。だいじょうぶ。もう落ち着く。
ふいに紅茶の匂《にお》いがした。小さく食器がなる音がして、あたしは顔を上げた。目の扦にティー・カップがさしだされて、あたしはキョトンとしてしまった。
「だいじょうぶ?」
抑揚《よくよう》のない靜かな聲。顔を上げると、ナルがカップをさしだしていた。薄めのグレイのパジャマを着てる。それがなんだかめずらしくて、あたしは思わず落ち着いてしまった。
「……ありがと。だいじょうぶ」
そっとカップを受け取る。うん、だいじょうぶ。手の震えがおさまったみたい。
「みんなも、ごめんね。ありがと」
カップを支えたまま軽く頭を下げる。そっと背中を綾子にぶたれた。
ナルは脇に立ったまま、軽く息をひとつ。それから、「なにがあった?」
そう聞いた。
あたしが丁寧《ていねい》に話を終えると、安原さんが低い聲で言った。
「鈴木さんか厚木《あつぎ》さん……もう司んでるのかもしれないな」
「おいおい、少年。気安く言うなよ」
ぼーさんは目を皖くしてる。
「だって、谷山《たにやま》さんが見たの、どちらかのことかもしれないでしょ」